パンやのくまさん
フィービとセルビ・ウォージントン 作・絵
まさき るりこ 訳
パン屋さんはお好きですか?
近頃は、都会でも田舎でもあちこちに個性的なパン屋さんがありますよね。そして、同じ種類のパンでもお店それぞれに特徴があり、食べ比べするのも楽しいものです。パン屋さんに行くのを楽しみにしているお子さんもいることでしょう。
この本は、子どもたちにお馴染みのテディベアが経営するパン屋さんのお話です。
ところで、この絵本のくまさん、構成が「絵本の文法」に忠実過ぎるために過重労働になってしまいました。
どういうことなのか、あまりネタバレをしない程度にちょっと見ていきましょう。
最初のページは、主人公のくまさんとくまさんのパン屋、配達用のワゴン車、そして色々なパンやお菓子の絵がアイコンのように文章中にちりばめられています。
主人公はこのパン屋さんで、こういうお店を持っていて、こんなパンやお菓子が売られているのだなと、これから始まる物語にわくわくしながら入っていけそうです。
そこから先は、くまさんの一日が始まります。
朝起きてから、夜寝るまでのくまさんの様子を追っていきますが、まあこのくまさんの働きっぷりったら!
パン作りから移動販売、店番、配達、売上の計算までマルチにこなし、一日中息つく隙もありません。
現実的には、役割分担するような仕事も、このくまさんひとりが担っているのですが、それには訳がありました。
この絵本では、パン屋さんの仕事の中で、小さな読者が知りたいであろう場面が選ばれ、描かれています。
その中で例えば移動販売、店番、配達という、1人で並行できないものは通常、別々の人が行うと思われます。
ところが、その辺りをリアルにしようと、その動作の主体者が、カメラがぱっと切り替わるように変わってしまうと、小さな読者は物語の筋を追いにくくなってしまいます。
最初に登場したくまさんが、時系列通りにひとつひとつの場面を渡り歩いていく方が、お話としてすっきりと分かりやすいのです。
くまさんの過重労働はこのような訳だったと推察されます。
ところがこのくまさんの働きっぷりは、思いがけず大人の読者にとっても楽しみを与えてくれます。
朝から晩まで息つく隙なく働き、疲れはてて眠り、また朝がやってくる…くまさんの働きに共感と清々しさを感じることで、子育て中の「24時間営業」感を笑いで癒してくれるのです。
夫も私もこの絵本を読むのが大好きでした。
そして、子どもたちが大きくなった今でも、この小さな絵本は本棚に並び、時々出番を待っています。