絵本といっしょに ~ちょびっとクラブ~

絵本をこよなく愛するメンバーによる、良質な絵本を楽しむクラブです。メンバーのひとり、Kの日々思うこと。

くまの皮をきた男


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グリムの昔話『くまの皮をきた男』

フェリクス・ホフマン  絵、

佐々 梨代子/野村 泫  訳、こぐま社

 

昔話は良いです。

子どもたちを健やかに育むタテのコミュニティとしての歴史の機能をしっかりと果たしてくれます。

外国の昔話も、自分たちとは違う文化、でも同じ喜怒哀楽を持った人間としてのあり方を示してくれます。

昔は昔話を語れる人が多くいました。そもそも元は書きことばで示された文学というより、口承で連綿と伝えられてきた物語です。

しかし、昔話を語ってくれる人が身近にいなくなってしまった現在、昔話の絵本が果たす役割は大きいと思います。

 

今回の一冊も、素敵な昔話絵本のひとつです。

30×21.5cmのやや大きな絵本は、それだけで存在感たっぷりです。ホフマンの美しい絵がどの見開きにも大きく描かれています。

いわゆる子ども受けする絵とは言い難いですが、味のある絵はこの物語の世界を良く表していると思います。

 

そして文体も美しいです。

子どもには少し難しく感じる表現もあるかもしれませんが、美しい響きのことばを、子どもたちに語って聞かせることができるのは、何だか嬉しいものです。

そのようなことばを伝える機会というのは、そう頻繁にあることではありませんから。

 

さて、ストーリーです。

「七年の間、身体を洗わず、ひげにも髪にもくしを入れず、つめも切らず、祈りもせずに生きのびたら、おまえを金持ちにしてやろう」兵役がなくなり、将来の展望が見えなくなって、悪魔とそんな取り引きをしてしまった若者。自分で仕留めた熊の皮を着せられ、放浪の旅に出ます。

なんともハードなスタートです。

 

しかし、これは典型的な西洋の「右肩上がりの履歴書型」(※昔話研究の第一人者、小澤俊夫先生の分類です。)の昔話。とても爽快なハッピーエンドです。

安心して子どもたちに読んであげてください。

 

また、それとは少し矛盾するかもしれませんが、この絵本では恋愛の要素が色濃く現れています。まあ、だいたい西洋のこのタイプの昔話は多かれ少なかれそうなのですが。

そのため、何だか大人が読むとさらに読み応えがあるのです。

親の言いなりの古い女性像も描かれますが、そこがいちいち気にならないのが昔話の良いところ。

語り口も昔話の型を崩していないので、純粋に、話の筋から余計な脱線をすることなく楽しめることと思います。

 

全体的にアーティスティックな昔話絵本ですので、大人が自分用に手に取るのもおすすめです。

そしてお気に入りになったら、子どもたちにも、そのわくわくとした気持ちごと、読み語るのはもっとおすすめです。