絵本といっしょに ~ちょびっとクラブ~

絵本をこよなく愛するメンバーによる、良質な絵本を楽しむクラブです。メンバーのひとり、Kの日々思うこと。

はじまりの日

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『はじまりの日』

ボブ・ディラン  作、ポール・ロジャース  絵、アーサー・ビナード  訳

岩崎書店

 

今日は5月のはじまりの日ですね。

大好きな一冊をご紹介します。

これは、ノーベル賞を受賞したミュージシャン、ボブ・ディランの名曲『Forever Young』の歌詞を絵本にしたものです。

彼の息子が生まれた時に、その息子のことを思いながら作られた曲だそうです。

確かに、その歌詞は子育てにおいて重要な視点に満ちた内容です。息子に対する深い愛情を感じさせます。

そして、何よりそれは親から子どもへ何かしてあげるという感じではなく、子ども自身に、それどころか大人たちにとっても、自分が生きていく上で大切な姿勢を示してくれている点が見事です。

我が家ではこの絵本の内容の能動的な部分(例えば、「約束を守って嘘を嫌う」というような、自分自身が心掛けられること)を生活信条として大切にしたいと思いながら、子どもたちと楽しんでいます。

 

とりわけ私が素敵だと思ったのは、扉に描かれている絵です。

男が「DIG YOURSELF」と書かれたボードを持っている絵ですが、その訳として「ひとりをたのしめ」と書かれているのです。

DIG YOURSELF---「自分自身を探究せよ」というような意味合いだと思うのですが、それを「ひとりをたのしめ」と訳した訳者の言葉選びのセンスに感嘆しました。

 

平時には表に現れなかった人々の心の闇があらわになるのを、今、私たちは眺めているのではないでしょうか。それは人の心のほんの一部にしか過ぎないはずですが、明らかに利己的で暴力的な心が容赦なく他者を攻撃しているのを目にすることが、今までに比べて多くなりました。

そのような心を持つ時、人は、果たして自分自身の姿を外側から冷静に見つめることができるでしょうか。自分の心の奥深くに近付き、それを眺めてその本当の望みを知ることができるでしょうか。

それができていないために、本来の自分の気持ちとはかけ離れたところで見当違いの攻撃を繰り返している。私にはそのように思えてなりません。

そんな時こそ、きちんとひとりにならなければと思います。

 

ひとりの時間の豊かさや、内省のひとときが人間にとってどれほど大切で喜びに満ちたものであるかを知らないのはもったいないと思います。

「ひとりをたのしめ」DIG YOURSELFをそのように訳した訳者がこの一言に込めたメッセージを、私はこのように解釈しました。

 

ところで、この絵本の絵は、アメリカの音楽史に精通した画家の手によるものです。

巻末に「この本の絵について」と題して、各場面の絵についての解説が載せてあります。

随所に遊び心溢れる仕掛けがあり、そちらも楽しめます。

 

それから、もうひとつ大切なこと、この本の文章は、そのまま「Forever Young」の曲に乗せて歌うことができるのですよ!

読みかたりに持って行くことも多い絵本ですが、いつかギターを弾きながら歌える人を一緒に連れていきたいと思っています。