100まんびきのねこ
『100まんびきのねこ』
ワンダ・ガアグ 文・絵、石井桃子 訳
子どものうちにぜひ出会っておきたい一冊をご紹介します。
私が小学校1年生の時に大好きだった絵本のひとつです。最近、改めて読み直してみました。
読み進めていくうちに、登場人物のおじいさんが10匹を超える猫を抱き抱えていたり、お腹が空いた猫たちに事も無げにその辺の草を食べさせたりする態度に違和感を感じつつ読みました。
私は今、猫を飼っています。そのためか、大きなものだと5kgを超える猫を一度に10匹以上抱える様子や、肉食の猫に平気で草を食べさせる(確かにビニール袋などの異物を食べるのを防ぐために補助的に猫にも草を与えますが、決して空腹を満たすためではありません)態度を見て余計なことを考えてしまったのでしょう。
しかし、1年生の私は物語の本筋とは関係のないそのようなことなど気にも留めなかったような気がします。
なんだかおかしいな、と思い、翌日、ひとり静かにもう一度この絵本を開きました。
すると、ラストに近いところで、ただ一匹残った猫とおじいさん、おばあさんのやり取りに目が留まりました。
自分など取るに足らないと思い、他の猫たちとの権力争いに加わらなかった猫、確かに今は小さく痩せてみすぼらしいかもしれない。
しかし、おばあさんは初めからたくさんの猫ではなく、一匹の猫が欲しかったのだから構わないという態度。
世話を受けて見違えるように可愛らしく成長した猫を見て、喜ぶおばあさん。確かにこの猫こそが他のどんな猫よりも一番だと、太鼓判を押すおじいさん。数多くの猫を見てきた経験から、自信たっぷりの態度です。
ああ、この部分が私の心に響いたのだなと分かりました。
まだ小さくて取るに足りない私。
だけど、私は成長することができる。
そして、お世話になった身近な人たちの一番の存在になれる。
当時はそんなことを言語化することなく、ただただ丘を埋め尽くすほどの猫の大群を面白いと思い、痩せ細った子猫が丸々と成長する姿をかわいいと思い、そのストーリーにぴったりと合った絵を楽しく眺めていただけです。
大混乱の場面から一転、登場人物たちの願いがすっかり叶い、きれいに収まって安堵する。そのような秩序あるストーリーも子ども心に安心感を与えてくれたのでしょう。
それから、この作品では、画面を埋め尽くすほどの数多くの猫たちが忽然と姿を消すシーンがあります。
猫たちがいなくなったことを知った時のおばあさんのセリフがすごいです。
「きっとみんなでたべっこしてしまったんですよ」
このセリフに驚く大人の読者は多いようです。
しかし、私は子どもの頃、このセリフに何ら残酷性を感じませんでした。
猫たちの共食いシーンなど全く想像せず、魔法のように消えるべくして消え去った、なぜなら彼等の役割はもう終わったから。
そのような感じだったのではないかと思います。
今回、この作品を再読したことにより、大人より子どもの方が物語を読み取る力が優れているのだということを改めて思い知らされました。
大人は色々な経験の積み重ねから、おはなしの世界に科学的な解釈を持ち込んだり、ことばの持つ意味をあまりにも直接的に受け取り過ぎるのではないでしょうか。(比喩的な表現は、大人の方が得意なはずなのに…不思議な矛盾ですね。)
多くの子どもたちに支持されてきたロングセラーにはやはりそれなりの理由があるようです。
小学校低学年位までのお子さんに、ぜひとも読んでもらいたい一冊です。