絵本といっしょに ~ちょびっとクラブ~

絵本をこよなく愛するメンバーによる、良質な絵本を楽しむクラブです。メンバーのひとり、Kの日々思うこと。

ファンタジーの力


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昨日、国内の7都府県に緊急事態が宣言されました。

新年度の開始や家族の状況、思い通りにいかない諸々の事情が重なって、閉塞感を感じている方も多いと思います。

普段は呑気なほど楽観的に自分の力を信じていたとしても、この世界で自分自身がやれることには実は限界があるのではないかというある意味極めて実際的な思考を、否応なしに取らざるを得ない日常の現実を見せつけられているような気がしています。

それでも、私たちは日々粛々と生活していかねばならない。自分ではどうしようもない悔しさや悲しみ、そのようなものを抱えながらも、「いつも通り」に生活するためには何らかの支えが必要です。

 

私は、ファンタジーがその支えのひとつになり得るのではないかと考えました。

鬱々とした気分のある日、私は書棚にあった『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ 作、上田真而子佐藤真理子  訳、ロスヴィタ・クヴァートフリーク  装画、岩波書店)を手に取りました。前回通読してからもう20数年振りではないかと思います。

最初に読んだのは小学生の時。平凡で特に不足を感じなかった子どもの頃の私には、母親を亡くし、父親とも距離感を感じている主人公の少年の立場はよく理解できていなかったと思われます。ところが中年の今は、その孤独な少年が現実離れした物語の世界にのめり込んでいく様にとても共感できました。

幻想的な世界の中で、異形のものたちが暗躍し、その世界を変えていく。そこに私は自分自身の心の中に働きかける大きな力を感じました。

先の読めない展開でありながら、物語という守られた安全な世界の中で繰り広げられる安心感。それはわくわくする期待に満ちた体験です。早く続きを読みたい気持ちと、この世界が完結してしまうのを惜しむ気持ちとの狭間で、私はこの本を毎晩少しずつ楽しむことにしました。

 

昔話、神話、伝説、そして現代の創作ファンタジー。これら現実を超えた不思議な物語たちは、心の奥底に働きかける何かしらの力を秘めていると改めて感じます。

私たちはそれらの力を借りながら生活していく大切さを、今まで忘れていたのではないかと思います。知っていたつもりでも、それがどれほど人生において重要なことかということを理解していたのだろうかと思い知らされます。

 

皆さんもふと立ち止まった時に、ぜひファンタジーの世界の扉を開いてみてください。

いつの間にか力がみなぎっているのを感じられるかもしれません。