絵本といっしょに ~ちょびっとクラブ~

絵本をこよなく愛するメンバーによる、良質な絵本を楽しむクラブです。メンバーのひとり、Kの日々思うこと。

色彩の効果と待ちわびる気持ちと


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『はなを  くんくん』

ルース・クラウス  文、マーク・シーモント  絵、木島  始  訳

福音館書店

 

春の訪れを感じる頃に必ず思い出す絵本です。

モノクロで丁寧に描かれた森の動物たち。冬ごもりから目覚め、彼らはあるひとつの方向に向かって一斉に駆け出します。

そして、その先に待っていたものは…

 

非常にシンプルなストーリーですので、ネタバレをしないように紹介しようとするとこれだけで済んでしまいます。

雪の溶け残る風景の中、はなをくんくんと動かし、春の兆しを求める動物たちとそれを見つけた時の弾けるような喜び。雪深い地域の人ほどその喜びの気持ちに共感できるものなのかもしれません。しかし、雪があまり降らない地域に住んでいる私にとっても、その喜びがぐっと迫ってくるというのが、この絵本の最大の魅力であり、絵本の持つ力を感じさせるものだと思います。

 

この絵本との出会いは、小学生の頃だったでしょうか。とにかく、初めて自分で読んだ時よりも初めて読みかたりをしてもらった時の方が強烈に印象に残っている本です。

(少し脱線しますが、この本の他にも「自分で読んだ時よりも読みかたりの時の方が印象が強烈」という本はいくつかあり、その中でも、この『はなをくんくん』と同様に、画面の力でそれを感じさせる絵本に『よあけ』(ユリ・シュルヴィッツ  作・絵、瀬田貞二  訳、福音館書店)という絵本があります。そのご紹介もまた別の機会に…)

 

この冬の終わりが見えた頃、春に向かって外へ飛び出そうとしていた私たちに未知の災難が降りかかりました。

私たちは、目に見えないけれども私たちを脅かすものに阻まれ、いつもの春の訪れを喜ぶことが困難になっています。まるで長い長い冬、それも暗く冷たい冬が続いているような気分です。

しかし、この絵本の動物たちが待ちわびていた春を迎えたように、すっきりとした気分で物事を進めていきたい、希望を抱いておきたい。気をつけておかないと暗がりに沈んでいくような気持ちを絵本の力で支えておきたいと思うのです。